女性の法曹人口・働き方について -日独比較-

2021/03/08 山中純子

 3月8日は国際女性デーだそうである。そこで、ドイツにおける女性の法曹人口の推移や女性の法曹の働き方などについて紹介したい。ここで紹介するのは、ドイツ連邦司法省の公式サイト1で統計等が公表されている内容のほか、筆者がドイツ滞在中に教えてもらった話で法令上の根拠等が不明確なものもあるが、約5年前の実際に見聞きして印象に残った話であり、女性の働きやすい社会の一例として紹介するに値するものだと考えている。

 2016年にドイツ・ベルリンの裁判所や検察庁で研修させてもらった際、女性の裁判官や検事が多いことを実感した。そもそも法曹人口に女性が占める割合が日本より多い。2018年、ドイツ全国の司法試験合格者数は9338人であり、そのうち女性は5423 人で全体の58.1%に当たる2。また、同年、ドイツ全国の裁判官21,338.91人に占める女性は9,761.30人であり、その割合は45.74%であった3。同年のドイツ全国の検事5,882.33 人のうち、女性は2,856.49人であり、その割合は48.56%であった4。そして、ベルリンにおいては、2019年時点で女性裁判官の数は、1476人中822人であり5、55%を超えていた。検事にいたっては、男性176人に対し、女性232人であった。これには、多くの女性検事が子供をもつと後に述べる時短勤務をするようになるからという事情もある。

 このように、法曹全体でも女性人口が多いのであるが、弁護士よりも裁判官や検事の方が職業として女性からの人気が高いと言われており、それには理由があるようだ。多くの法曹が口を揃えて教えてくれたのは、裁判官や検事には、日本で言う「時短」に相当する働き方があり、何割の働き方をするかを各自が選べるので女性が働きやすいという事情である。実際、私が研修先の検察庁で出会ったある20代後半の若手女性検事はシングルマザーであり、それまで50%の働き方をしていたが、最近子育ても落ち着いてきたので70%に増やしたなどという話を聞かせてくれた。例えば、50%の働き方というのは、働く時間が単純に半分というのではなく、仕事量の目安が半分とのことである。その部署で事件の配てんをする上司が仕事の負担が半分になるように配てんするそうだ。事件数を単純に半分にするわけでもなく、事件の複雑さや重大さ等も考慮して上司が判断する。したがって、予想外に仕事に時間がかかってしまうこともある。
 しかし、ドイツの裁判官・検事というのは、何割勤務かにかかわらず、極めてフレキシブルな働き方が認められている。仕事が終わらなければ翌朝早く登庁し、仕事が早く終われば午後3時台でも退庁する。筆者が研修中に、担当検事に質問しようと午後4時に執務室を訪ねたら、既に退庁済みだったということもよくあった。このフレキシブルな働き方には、システム化された起訴状の起案ソフトや、上司や先輩検事が残っていても何も気にせず退庁することができる雰囲気など、様々な要因が見受けられたが、いずれにしてもフレキシブルな働き方をすることができるので、子育てや介護など様々な事情を抱えていても、給与をフルで受給するためにも100%勤務で働く裁判官・検事も多いようであった。そして、先に例に挙げた50%勤務の場合であれば、予想外に仕事量が多くなってしまっても働く時間帯を自分で調整することができるので、子育て等との両立が可能となるのである。初めに紹介したドイツの裁判官や検事の数に、21,338.91人、5,882.33 人などと、日本では見かけない小数点以下の数値があるのは、頭数ではなく、各人が何割勤務であるかを反映して何人分の労働力かに換算しているからである。
 女性裁判官のインタビュー記事6を読むと、時短勤務であっても事件を平等に配てんしなければならないというルールがあるため、フルタイムの人と同じようにおもしろい事件を担当してきており、フルタイム勤務よりも劣った立場にあるというネガティブな感情を覚えたことはないと述べている。

 他方で、日本における女性の法曹人口割合はどのくらいであろうか。2020年の司法試験合格者のうち女性の占める割合は、25.31%であった7。2020年時点で、全国の裁判官2798人中、女性は27%、全国の検事1977人中、女性は25.4%であった8。また、2020年の新たな検事任官者66人のうち、女性は24人で全体の36.4%であった9。2021年の新任判事補66人のうち、女性は23人で全体の34.8%であった10。ドイツに比して、そもそも裁判官・検事の任官者数が国民人口に対して少なすぎるように思われるため、単純にドイツと比較することはできないが、司法試験合格者に占める女性割合よりは、女性裁判官・女性検事が占める割合は大きい。しかし、おそらく裁判所や検察庁に行き、女性が男性よりも多いと感じるほどではないのではないだろうか。

 では、女性裁判官・女性検事の働き方改革は進んでいるのであろうか。筆者が2017年頃日本の検察庁で働いていた際に見聞きしたのは、育休後に仕事復帰した女性検事が、本来の午前9時半出勤を1時間早めて午前8時半出勤にし、たしか1時間の時短を利用しており、午後4時30分頃に仕事を終えて子供を保育園に迎えに行くという働き方であった。ただし、近頃の女性検事の大きな役割である司法面接を多く担当するため、例えば児童に対して放課後の午後6時から司法面接を実施する際などには、やむを得ず残業をしていた。
 これでも女性検事の働く環境が改善してきていると感じたのは、筆者が新任検事だった頃、妊娠中の女性検事が毎日のように午後11時頃まで残業をしてる信じがたい光景を見ていたからであろうか。当時、司法試験合格者数に占める女性割合に比して、新しく検事任官する者に占める女性割合が大きいことから、検察庁は男女平等が進んでいるという話を聞いて任官したが、妊娠中でも男女平等な働き方をするということだったのかと驚いたものである。

 現在の日本の裁判所や検察庁における女性の働き方の実態は分からず、以前より改善している点もあるだろう。しかし、ドイツにおける研修で実感した女性裁判官や女性検事の多さには、十分な理由があるように思われる。国際女性デーということで、世界の女性法曹の働き方がもっと知られ、日本における女性法曹の働き方についても、もっと議論されることを願う。