チケット不正転売禁止法の規制と罰則

弁護士 進藤 広人

1.チケット不正転売禁止法の概要

 人気のコンサートや舞台などのチケットを業者や個人が買占め,オークションサイトやチケット転売サイト等で定価を大幅に上回る価格で販売する高額転売等の不当な販売により,チケットを本当に求めている人にとって入手しづらい状況が続いてきました。

 そこで,チケットの高額転売等を防止するため「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(略称:チケット不正転売禁止法)が令和元年6月14日から施行されています。

 近年では,同法の適用事例として,人気アイドルグループ「嵐」のコンサートの電子チケットをSNSで高額転売するとともに,コンサート会場に入場するために身分証を偽造して使用したとして,チケット不正転売禁止法違反等の罪に問われた女性に対して,懲役1年6か月(執行猶予3年),罰金30万円の判決を下るなど,下級審レベルにおいては適用事例が見受けられます。

 本稿においては,チケット不正転売禁止法による規制を再確認するとともに,本稿をご覧いただいた皆さんに対しては,新型コロナウィルス終息後に活気が戻るであろうライブイベント等について,チケットの高額転売等の不正転売の抑止を図るための一助になれば幸いです。

2.チケット不正転売禁止法の規制対象と罰則

(1)チケット不正転売禁止法の規定

   まずは,チケット不正転売禁止法の規定を確認しましょう。

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特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律(抜粋)

(目的)

第一条 この法律は、特定興行入場券の不正転売を禁止するとともに、その防止等に関する措置等を定めることにより、興行入場券の適正な流通を確保し、もって興行の振興を通じた文化及びスポーツの振興並びに国民の消費生活の安定に寄与するとともに、心豊かな国民生活の実現に資することを目的とする。

(定義)

第二条 この法律において「興行」とは、映画、演劇、演芸、音楽、舞踊その他の芸術及び芸能又はスポーツを不特定又は多数の者に見せ、又は聴かせること(日本国内において行われるものに限る。)をいう。

2 この法律において「興行入場券」とは、それを提示することにより興行を行う場所に入場することができる証票(これと同等の機能を有する番号、記号その他の符号を含む。)をいう。

3 この法律において「特定興行入場券」とは、興行入場券であって、不特定又は多数の者に販売され、かつ、次の要件のいずれにも該当するものをいう。

 一 興行主等(興行主(興行の主催者をいう。以下この条及び第五条第二項において同じ。)又は興行主の同意を得て興行入場券の販売を業として行う者をいう。以下同じ。)が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、かつ、その旨を当該興行入場券の券面に表示し又は当該興行入場券に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の映像面に当該興行入場券に係る情報と併せて表示させたものであること。

 二 興行が行われる特定の日時及び場所並びに入場資格者(興行主等が当該興行を行う場所に入場することができることとした者をいう。次号及び第五条第一項において同じ。)又は座席が指定されたものであること。

 三 興行主等が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、次に掲げる区分に応じそれぞれ次に定める事項を確認する措置を講じ、かつ、その旨を第一号に規定する方法により表示し又は表示させたものであること。

  イ 入場資格者が指定された興行入場券 入場資格者の氏名及び電話番号、電子メールアドレス(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六号)第二条第三号に規定する電子メールアドレスをいう。)その他の連絡先(ロにおいて単に「連絡先」という。)

  ロ 座席が指定された興行入場券(イに掲げるものを除く。) 購入者の氏名及び連絡先

4 この法律において「特定興行入場券の不正転売」とは、興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものをいう。

第二章 特定興行入場券の不正転売等の禁止

(特定興行入場券の不正転売の禁止)

第三条 何人も、特定興行入場券の不正転売をしてはならない。

(特定興行入場券の不正転売を目的とする特定興行入場券の譲受けの禁止)

第四条 何人も、特定興行入場券の不正転売を目的として、特定興行入場券を譲り受けてはならない。

(中略)

第四章 罰則

第九条 第三条又は第四条の規定に違反した者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

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(2)チケット不正転売禁止法の規制対象について

ア 規制対象となるチケット

 本法における譲渡規制の対象となるチケットは,日本国内における映画、演劇、演芸、音楽、舞踊その他の芸術及び芸能又はスポーツを不特定又は多数の者に見せ、又は聴かせる「興行」(同法第2条1項)を行う場所に入場することができる「興行入場券」(同法第2条2項)です。

 そのため,同法における「興行」に当たらないもの,例えば,海外で行われる興行に関するチケットの営利目的譲渡や,品薄状態が続く家庭用ゲーム機の販売整理券の営利目的譲渡は本法の適用対象となりません。

 さらに,本法の規制の対象となるのは,「興行入場券」のうち,不特定多数の者に対して販売されるものであって,①販売に際し、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、その旨が券面(電子チケットは映像面)に記載され,②興行の日時・場所、座席(または入場資格者)が指定され,③座席が指定されている場合、購入者の氏名と連絡先(電話番号やメールアドレス等)を確認する措置が講じられており、その旨が券面に記載されている(座席が指定されていない立見のコンサートなどの場合、購入者ではなく、入場資格者の氏名と連絡先(電話番号やメールアドレス等)を確認する措置が講じられており、その旨が券面に記載されている)「特定興行入場券」であることが必要となります(法第2条3項)。

 そのため,例えば,リリースイベントでCD等の購入者に無料配布されるライブスペースへの入場整理券は③の要件を欠くため「特定興行入場券」とは言えず,これを有償譲渡したとしても「特定興行入場券の不正転売」には該当しないこととなります。

イ 規制対象行為について

 チケット不正転売禁止法は,①「特定興行入場券の不正転売」行為(第3条),及び,②「特定興行入場券の不正転売」を目的とした「譲り受け」行為(第4条)を規制対象としており,これらの罪を犯した者に対しては1年以下の懲役または100万円以下の罰金またはその両方を併科すると規定しています。ここでの、「特定興行入場券の不正転売」とは、(1)興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、(2)興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものをいいます(法第2条4項)。

 そのため,「特定興行入場券の不正転売」に当たらない行為,例えば,譲り受けたチケットを自ら使用する場合(不正転売目的を欠く譲り受け行為)や,都合によりどうしてもイベントに行けなくなった等の理由によりチケットを定価以下で転売する行為(営利目的性を欠く場合),良い席を確保するために複数のアカウントを使ってチケットの申し込みを行い,余ったチケットを定価以下で転売する行為(販売価格を超えない譲渡)等は,「特定興行入場券の不正転売」には該当せず,チケット不正転売禁止法の規制対象とはなりません。

 なお、複数の出演者が出演する「対バンライブ」において、目当ての出演者の出番の際に有償で最前列の座席の者と位置を交代する,いわゆる「最前管理行為」等については,特定興行入場券自体を譲渡しているわけではないため本法の対象とならないとも考えられるものの,希望の出演者の出番の際に「定価+α」の価格で座席等を変更することのできる地位を譲渡するものであり,実質的には当該出演者の出番の際の「特定興行入場券」を譲渡していると同視し得ることから,営利目的等のその他の要件を具備する限り,本法の規制対象となる「特定興行入場券の不正転売」に該当しうると解されます。

3.不正転売により得たチケットを使用する行為の問題性

 上記のとおり、チケット不正転売禁止法は、主に、営利目的でチケットを「転売する側」の転売行為を規制対象としているため、どうしてもチケットを入手することが出来ず、これらの者からチケットを譲り受ける行為、すなわち「転売される側」の譲受行為は同法の規制対象とはなっていません。

 しかし、不正転売により取得したチケットを自ら使用する行為については、多くの場合には、興行主とのチケットの売買契約における契約内容において、転売されたチケットによる入場を明示的に禁止している興行が多いため、無効なチケットとして入場が認められない等の民事的なペナルティが課されることが多いと思われます。

 また、不正転売の譲受人が不正転売により取得したチケットが無効なチケットであることを認識しつつ、無効なチケットであることを秘して、身分を偽って無効なチケットを行使し会場に入場して興行等を鑑賞する行為は、会場管理者に対する建造物侵入罪(刑法第130条前段)、及び、興行主に対する詐欺罪(刑法第246条2項)が成立する可能性があります。

このように、不正転売禁止法の規制対象となるチケットを譲り受ける行為自体は同法の規制対象とならないものの、同法の規制対象のチケットを利用する行為は、場合によっては、不正転売禁止法に規定する罰則以上の罰則が科される可能性がありますので、十分な注意が必要です。

以 上