刑法典における性犯罪規定の改正案についての提言


はじめに

 2020年(令和2年)は、当会の活動として「刑法典における性犯罪規定の改正案についての提言」を作成しました。この提言は、次の3つの文書から成っています。

  1. 刑法典における性犯罪規定の改正案についての提言(本文)
  2. 各国性犯罪規定の構造的比較(論考)
  3. 各国の性犯罪規定(資料集)

 当会は、この提言、論考、資料集を、すでに法務省法制審議会の「性犯罪に関する刑事法検討会」に提出いたしました。当会が提出した提言は、同検討会の第9回会議(令和2年12月8日)において委員に配付されたとの報告を受けています。

資料PDFのダウンロード

(活動のきっかけ)
 わが国の性犯罪に関する規定は、平成29年(2017年)に改正されましたが、その際、附則において3年後に見直しをすることが定められています。同年の改正については、改正直後から不十分であるとの評価もあり、また、平成31年(2019年)2月から3月にかけて、性犯罪に関する無罪判決が立て続けに4件下されたことをきっかけに、裁判に対する批判や不同意性交罪の新設を求める市民運動なども巻き起こりました。
 他方で、法曹関係者などからは、無罪判決に対する擁護的な意見や不同意性交罪が導入された場合の問題点なども表明され、法曹関係者と市民との間に亀裂が生じているという印象すらありました。
 そうした中、私たちは、法律家として、不同意性交罪を求める市民の声を一蹴するのではなく、世界各国における性犯罪規定の潮流を踏まえつつ、わが国に適する性犯罪規定の在り方を探り、建設的に提言する、ということを目的として、この活動を開始しました。

(私たちの到達点)
 調査・検討の結果、私たちが到達した結論、つまり具体的な改正案の内容については、何よりも後掲の提言の中身を見ていただくのが最も手っ取り早いと思いますが、1つだけその特徴を述べれば「不同意性交罪」の導入の是非に関しては、私たちは、さまざまな問題点を考慮したうえで、これを導入する方向での提言としています。
 また、私たちがどのようなことを考えて具体的な改正案を練り上げたかについて、詳細は、論考「各国の性犯罪規定の構造的比較」に記述しました。また、その際に比較検討の対象とした「各国の性犯罪規定の原文とその訳文については資料集としてまとめました。

(本提言に関するご意見・ご感想について)
 本提言につきましては、一方において、不同意性交罪の創設に踏み込んでいることなどから、特に法律家サイドからの批判的な意見があろうかと思います。また、他方では、法定刑などの点において一般市民の方々からは不満に感じられる面があるかとも思います。
 しかしながら、私たちとしては、現時点における主要各国における性犯罪規定についての改正の方向性や、不同意性交罪を導入した際に特に注意を要すると考えられる「錯誤による同意」や「同意に対する錯誤」の問題への対応、また、それぞれの国において異なる量刑の運用なども踏まえ、わが国において現実的なバランスのとれた改正案を目指しました。
 私たちが到達した結論に対して、みなさまの忌憚のないご意見やご感想をいただければ幸いです。

ご意見・ご感想の送信フォーム

刑法典における性犯罪規定
の改正案についての提言

刑事司法について考える法律家の会

2020/11/16

 目  次
第1 本提言(改正案)の要点
第2 本提言の目的
第3 本提言における具体的な条文案とその説明
 1 身体の部位や器物の性器・肛門への挿入を追加
 2 「威力」「不意」による場合
 3 心神耗弱やアルコール・薬物による正常な判断が困難な場合、その他抗拒が困難な場合の拡張
 4 不同意性交等罪
 5 類型的に地位が濫用されやすい場合
 6 過失犯処罰規定の有無・範囲
 7 未遂犯・結果的加重犯の規定
 8 新たな構成要件の法定刑
 9 結び
 【改正案全文】


第1 本提言(改正案)の要点

(本提言末尾に全文あり)
  1. 性交、肛門性交及び口腔性交を意味する「性交等」に加え、身体の部位や器物の性器・肛門への挿入を「手淫等」として追加する。
  2. 反抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫を要件とする現行のわいせつ行為・性交等に加え、「威力」による場合を規定する。
  3. 現在、強制わいせつ罪の「暴行」で捕捉している「不意打ち」によるわいせつ行為について、「不意に」行った場合として、別の条文を設ける。
  4. 現在準強制わいせつ罪及び準強制性交等罪として規定されている心神喪失・抗拒不能の類型に加え、心神耗弱やアルコール・薬物による正常な判断が困難な場合、その他抗拒困難な場合を規定する。
  5. 認識できる意思に反する性交 など に対する不同意性交等罪を新設する。
  6. 13歳以上16歳未満の者に対して18歳以上の者がした性交なども不同意性交等罪として処罰範囲を明確化する。
  7. 監護者わいせつ・監護者性交等罪に加え、類型的に地位が濫用されやすい場合を追加する。

第2 本提言の目的

 平成29年に、刑法典における性犯罪規定の改正がなされた。同改正に当たっては、附則第9条において、施行後3年を目途に、性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り方について検討を加え、必要に応じて検討に基づいた所要の措置を講ずると定められた。本年(令和2年)は、この施行後3年目の年に当たる。
 法務省においても、平成30年5月より、性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループが設けられ、令和2年3月30日、第14回目会合において、最終的な取りまとめが提示された。その後、性犯罪に関する刑事法検討会にて、論点が提示され、検討が続けられている。最終的には、法制審議会における本格的な検討がなされると解される。
 この間、平成31年2月から3月にかけて、立て続けに性犯罪に関する4件の第一審無罪判決が出され(うち2件については高裁にて逆転有罪となった。)、被害者団体等の市民団体が新たな性犯罪規定の立法を求めた活動を大きく展開してきた。
 このような状況を受け、本提言は、各国(アメリカ(連邦及びニューヨーク州)、イギリス、カナダ、ドイツ、フランス、スウェーデン、フィンランド、韓国、台湾)[1]の性犯罪規定の在り方を分析、比較検討し、世界の性犯罪規定の在り方と比べて何が不足しているかを明らかにし、改正性犯罪規定の検討のための材料を提供することを目的とするものである。

[1] 各国法については、原文乃至英文を入手して翻訳をしたほか、刑事法ジャーナル45号「性犯罪規定の比較法的研究」、及びHuman Rights Now 性犯罪に関する各国法制度調査報告書などを参照した。詳細については、本提言添付の「各国性犯罪規定の構造的比較―わが国の2020年性犯罪規定見直しに向けて―」を参照されたい。


第3 本提言における具体的な条文案とその説明

1 身体の部位や器物の性器・肛門への挿入を追加

(強制性交等)
第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交若しくは口腔性交(以下「性交等」という。)又は性器若しくは肛門への身体の部位若しくは物の挿入(以下「手淫等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等又は手淫等をした者も、同様とする。

(1)各国法の比較からわかること(表1参照)

ア 一部の例外を除き、今回調査をしたほとんど全ての国において、性交等か、わいせつ行為かによって、法定刑に差を設けており、我が国の構成と一致している。そのため、強制性交等と、強制わいせつとに条文を分け、法定刑に差を設けることは、適切と考える。

イ 問題は、「性交等」として、それ以外のわいせつ行為と区別して重い評価をする範囲である。
 改正前の日本法における強姦罪同様、各国は、男性器の女性器への挿入を、性交等の核たる部分としつつ、同程度の評価が可能な範囲を、「性交」に含めるか、或いは、性交そのものではないが、それに類似する行為として重い法定刑を定めている。
 男性器を女性器に挿入する狭義の性交以外の行為のうち、肛門性交、口腔性交は、今回調査対象としたカナダを除く全ての国において単純なわいせつ行為よりも重い評価がされている。
 その一方で、性器以外の身体の一部(特に手指が規定されている場合が多い)や物を、性器や肛門に挿入する場合(口腔への挿入は意図的に除外されている)についても、性交と同程度に重い評価をしている国が多い。
 我が国では、この点の改正は平成29年の刑法改正時にはなされなかったが、男性器以外の身体の一部や物を性器や肛門に対して挿入することは、性的な領域の侵害としては狭義の性交と同程度に重大であり、法的に重い評価がなされる範囲を男性器が挿入される場合に限る必然性はないと考えられる。特に、男性器の挿入があった場合のみを強制性交等罪の対象とすることは、性的指向の差別や偏見の撤廃を求める社会的・国際的潮流とも整合しないと言わざるを得ない。
 そのため、我が国においても、この方向での改正は必要と考える。

(2)「手淫等」の追加

 上記検討に照らし、現行の強制性交等の条文において、人の性器又は肛門への身体の部位又は物の挿入を、処罰の対象となる行為として追加すべきである。
 ただし、現行の性交等と同程度の評価が可能なのは、行為者が、被害者の身体の部位や物の挿入をした場合であって、行為者が、被害者をして、行為者の性器又は肛門に身体の部位や物の挿入をさせた場合については、性交等と同程度の法益侵害があるとは解し難い。特に、後者の場合についても「性交等」と評価した場合、女性器に対する手淫行為を強いる行為のみが「性交等」に該当し、男性器に対する手淫行為を強いる行為については「性交等」に該当しないこととなり、刑の不均衡が生じる。
 そこで、人の性器又は肛門への身体の部位又は物の挿入については、「手淫等」として、行為者が、被害者の性器又は肛門に対して挿入行為をした場合に限って規定することを提言する。
 なお、以下、本文においては、性交等と手淫等を含めて、「性交など」と記す。

(表1)

拡大するにはクリックしてください

2 「威力」「不意」による場合

(威力わいせつ及び不意わいせつ)
第176条の2 13歳以上の者に対し、威力を用いてわいせつな行為をし、又はさせた者は、7年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。
② 13歳以上の者に対し、不意にわいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
(威力性交等)
第177条の2 13歳以上の者に対し、威力を用いて性交等若しくは手淫等をし、又は性交等をさせた者は、威力性交等の罪とし、3年以上15年以下の有期懲役に処する。

(1)各国法の比較からわかること(表2参照)

ア 各国が、性交などの事実に加えて処罰要件としている付加的要素については、いくつかの方向での分類が可能である。
 まずは、不同意性交罪として、被害者が不同意であることそれ自体によって処罰が可能な規定となっているかどうかである。ニューヨーク州刑法第130.05条、イギリス性犯罪法第1条、カナダ刑法第265条、第271条、ドイツ刑法第177条、スウェーデン刑法第6章第1条がこのような規定を置いている(台湾刑法第221条も類似の規定振りとなっている。)。
 その上で、暴行や脅迫の要件については、不同意を推定させる事情や加重類型として規定されていることが多い。
 また、不同意性交罪が置かれていない場合であっても、単純な畏怖などが捕捉されている国が多く、そのような国においては、条文構成上、反抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫や、心神喪失・抗拒不能が必要要件とされているとは言い難い。

イ 日本法は、反抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫[1]や、心神喪失・抗拒不能を構成要件として定めているが、各国との比較をすると、ここまで厳格な規定が必要かは疑問である[2]
 そこで、より要件を緩和した処罰の類型を追加すべきである。ただし、その形式としては、現行の強制性交等罪・強制わいせつ罪の規定が(改正前の強姦罪の時代も含め)長期に亘り運用され、実務においても定着していることに鑑みると、現在の犯行を著しく困難にする程度の暴行・脅迫を求める強制性交等罪・強制わいせつ罪は、最も重い類型として規定しておき、それよりも軽度な場合を、法定刑を下げて規定する方向が妥当と考える[3]

ウ このほか、我が国では、強制わいせつ罪の「暴行」には、わいせつ行為の準備段階としての暴行だけではなく、わいせつ行為そのものとなる瞬間的な暴行行為も含まれるとしている。しかし、これは、条文解釈としてはかなり無理をしていると言わざるを得ない。この点については、ドイツやフランスにおいて、不意打ちや驚愕を利用した場合として明記されており、処罰対象として捕捉されることを条文上明確化する観点から、我が国においてもこのような規定を置く方向で検討すべきである。

(2)「威力」の場合への拡張

 ところで、刑法典においては、強盗罪と恐喝罪のように、必要な暴行・脅迫の程度が緩和されていることを、「暴行」「脅迫」以外の別の文言を用いることによって表現している場合がある[4]。既に、現行の強制性交等罪・強制わいせつ罪における「暴行」「脅迫」は反抗を著しく困難にする程度のものをいうとの解釈が定着していることに鑑み、それよりも緩和された実行行為類型の規定についても、「暴行」「脅迫」以外の文言を用いるのが適切と考える。

 その場合の文言としては、「威力」「威迫」などが考えられるが、「威力」については、「人の自由意思を制圧するに足りる勢力」を意味するのに対して、「威迫」は、「他人に対し言語、挙動をもって気勢を示し、不安困惑の念を生ぜしめる行為」を意味するとされる[5]。そのため、「威力」は、威迫よりも意思に対する抑圧の程度が高い場合を想定しているといえる。不同意とされる類型のうち、比較的重い処罰に値する行為類型を画するという観点からは、文言として「威力」が適切と考える。なお、不安・困惑により同意を欠くような場合については、後述の不同意性交等罪において捕捉される限りにおいて、処罰対象とするのを妥当と考える(法定刑は威力の場合よりも軽く、対象は性交等及び手淫等のみである。)。

 また、強制性交等罪・強制わいせつ罪においては、「性交等をした者」「わいせつな行為をした者」として、「させた」という行為類型が条文上規定されていないが、これは、被害者の意思の抑圧の程度が強く、被害者側の意思に基づく行為が想定されないためと解される。実際、強盗罪と恐喝罪を比較すると、強盗罪では「他人の財物を強取した者」と規定されているのに対して、恐喝罪では「人を恐喝して財物を交付させた者」と規定されており、同様の理由による区別がみられる。
 ここでは、反抗を著しく困難にする程度でなくてもよいことを明らかにするために、「させて」との規定も条文化する。

(3)「不意」の明文化

 また、不意打ちによるわいせつな行為は、同意するか否かの意思を表明する機会すらなくわいせつな行為を一方的に行うものであり、処罰の必要性はあると言わざるを得ない。しかし、現行法が本来的に予定している強制わいせつ罪(反抗を著しく困難にする程度の暴行又は脅迫を用いる場合)と比較して、その違法性の程度は低いものと考えられ、「威力」を用いた場合と同程度と考える。そこで、「不意に」として別途規定をし、威力を用いたわいせつ行為と同様とした。
 いわゆる痴漢等の犯罪類型や、わいせつ行為が瞬間的なものにとどまる通り魔的な犯行への適用を予定している。

[1] 最二小判昭和33年6月6日集刑126号171頁等
[2] 財産犯などについて、佐藤陽子「被害者の承諾(三)―各論的考察による再構成―」北法58巻5号8頁以下参照。
[3] 井田良「性犯罪処罰規定における暴行・脅迫要件をめぐって」法曹時報72巻2号253頁以下参照
[4] 強盗罪では「暴行又は脅迫を用いて」、恐喝罪では「人を恐喝して」と規定されている。
[5] 最二小決昭和42年2月4日刑集21巻1号9頁参照


3 心神耗弱やアルコール・薬物による正常な判断が困難な場合、その他抗拒困難な場合の拡張

(準威力わいせつ及び準威力性交等)
第178条の2 次の各号に定める状態に乗じ、又は次の各号に定める状態にさせて、わいせつな行為をし、又はさせた者は、第176条の2の例による。ただし、第2号の場合において、承諾を得たときはこの限りでない。
 一 人の心神耗弱、又はアルコール若しくは薬物の影響により正常な判断が困難な状態
 二 前号に掲げるもののほか、人の抗拒の困難な状態
② 次の各号に定める状態に乗じ、又は次の各号に定める状態にさせて、性交等若しくは手淫等をし、又は性交等をさせた者は、第177条の2の例による。ただし、第2号の場合において、承諾を得たときはこの限りでない。
 一 人の心神耗弱、又はアルコール若しくは薬物の影響による正常な判断が困難な状態
 二 前号に掲げるもののほか、人の抗拒の困難な状態
③ 知的障害その他の障害を有するために前2条に定める心神耗弱に常にある者に対し、その配偶者又はそれに準じる関係のある者が、その承諾を得て、わいせつな行為又は性交等若しくは手淫等をするときは、これを罰しない。

 任意の同意がなされているかどうかは、選択の自由と選択の能力があるかによって判断できる(イギリス性犯罪法第74条参照)。
 現行の準強制性交等罪・準強制わいせつ罪においては、主に、選択の能力が喪失している場合を「心神喪失」「抗拒不能」として規定していると解される。
 しかし、各国法との比較よりわかるように、ここまで重大な意思の抑圧が必要とするのは厳格に過ぎる。威力等わいせつ罪、威力性交等罪の規定に準じる場合として、このような選択の能力が限定されている場合を捕捉すべきである。

 ところで、「心神喪失」と「心神耗弱」の区別は、責任能力の規定(刑法第39条)だけでなく、現行の準強制性交等罪・準強制わいせつ罪と、準詐欺罪(刑法第248条)でも問題となる。
 準詐欺罪における「心神耗弱」とは、「意思能力を喪失するには至っていなくとも、精神の健全さを欠き、事物の判断を行うために十分な普通人の知能を備えていない状態」を意味する。この定義は、心神喪失には至らないが、選択の能力が限定されている場面として、性的な自己決定能力について考える場合にも用いることが可能である。

 また、「アルコール若しくは薬物の影響により正常な判断が困難な状態」については、自動車運転処罰法第2条第1号に規定されている通りである。
 これらの規定については、3項による例外を除き、承諾がないことを処罰要件としない。選択の能力が減退しているにもかかわらず、真意に基づく承諾が可能であること自体、疑わしく、原則的に瑕疵ある同意の類型といい得るものだからである[1]。このことは、2号については、「ただし、第二号の場合において、承諾を得たときはこの限りでない。」とすることにより、明確にした。

 このように、心神耗弱を規定した場合、常に心神耗弱にあるような知的障害その他の障害を有する者が、その配偶者等との間で、真摯な関係性に基づき、わいせつ行為や性交などを行った場合まで、本条が適用されるようにもみえる。もちろん、本条柱書「乗じ」ていないものとして適用を否定することも可能であるが、そのような知的障害者等の性的行為を行う自由を、刑法が間接的に否定することは適切ではないため、3項を規定した。

[1] 心神喪失による準強制性交等罪や準強制わいせつ罪については、同意能力を欠くものとして、被害者の同意は構成要件該当性を阻却しないものとされている(東京高判昭和58年6月8日東時34巻4=6号23頁等参照)。


4 不同意性交等罪

(不同意性交等)
第178条の3 認識することができる人の意思に反して性交等若しくは手淫等をし、又は継続した者は、1年以上10年以下の懲役に処する。
② 性交等又は手淫等の性質又は態様についての人の錯誤であって当該錯誤がなければ性交等又は手淫等が人の意思に反することとなるものに乗じて、性交等若しくは手淫等をし、又は継続した者についても、前項と同様とする。
③ 13歳以上16歳未満の者に対して、性交等又は手淫等をした18歳以上の者は、第1項と同様とする。

(1)被害者の性交などに対する意思に反して、性交などを行うことは、たとえ威力を用いていないとしても、本来的には許されるものではない。
 しかし、これを不同意性交等罪・不同意わいせつ罪として刑法による処罰対象としようとすると、処罰範囲が不明確になりがちであるという問題がる。この点については、その範囲を性交等及び手淫等に限定し、かつ、認識可能な意思に反するとの規定にすれば[1]、処罰範囲の不明確さは回避できると考える。一般的に、性交等及び手淫等は、それ以外のわいせつ行為と異なり、性的自己決定権が特に保護されるべき場面であり、かつ偶然行われることは考えにくいからである。また、被害者の意思の認識可能性を要求することで、処罰の対象となるか否かが完全に被害者の主観面によって決定されるという問題も、回避することができる。

 以上を踏まえ、本条1項のように規定することを提言する。「認識することができ」ないというのは、刑法第7条の2に出てくる表現と平仄を合わせた。

 また、認識可能な意思に反することを知りながら、性交等や手淫等を開始するだけでなく、性交などを開始した後にそれが被害者の認識可能な意思に反することを知るに至った場合に当該行為を継続することも、可罰性としては差がない。被害者の承諾については、常に撤回の自由が認められるべきであるため、途中で撤回された場合に加え、当該行為の途中で被害者の当初の意思に反することが判明した場合にも、当該行為を直ちに中止すべきだからである[2]

(2)このような不同意性交等罪を設けた場合、被害者の同意の錯誤の問題が争われる可能性が高い(このことは、イギリスやカナダの例を見れば明らかである。)。

 この点、本提言における条文案としては、原則的には、あくまでも性交などそのものに対する認識可能な被害者の意思に反して、性交などをした場合を処罰するものであり、性交などそのものに対する承諾がある場合には、処罰範囲に含まれないことを想定している。
 ただし、被害者において、性交などを行う際の核心的な要素に錯誤がある場合に、行為者が、そのような核心的な要素に錯誤があることを知りながら、それに乗じて性交などに及ぶことは、性交などそのものに対して承諾がないことを知りながら性交などをした場合に準じた可罰性がある。
 我が国においても、現行法上、錯誤が著しい場合については、抗拒不能の一場面として処罰されているが、それ以外に、どのような被害者の錯誤であれば処罰され得るかについては、その範囲を明文化することにより、全ての錯誤が広く処罰対象になり得るかのような事態は避けられると考える。
 そのため、このような核心的な要素に対する錯誤がある場合については、同様に処罰可能であることを規定上明記するべきである。

 どのような場合が核心的な要素であるかについては、欺罔が介在する場合と併せて、「行為の性質又は目的」に錯誤がある場合には、確定的に不同意が推定されるイギリス法の規定が参考になるところである。
 そして、性交などの性質及び態様については、性交などを行うに当たって通常核心的な要素といえる上に、錯誤がなければ性交などに応じなかったといえるようなものについては、認識可能な意思に反して性交などを行った場合に準じるといえると考えられる。
 性交などの性質又は態様については、例えば、避妊の有無や撮影の有無、性交なのか肛門性交なのかといった点が想定される。手淫等の性質又は態様については、手指によるのか器物によるのかの違いや、手淫の対象が性器なのか肛門なのかといった違いが挙げられる。なお、被害者が相手方の人違いによって同意した性交などついては、性交などの性質又は態様の違いに含まれるが、通常、より重い準強制性交等罪にて処理される(法条競合)。

(3)性交同意年齢については、各国でかなり差があり、また単純に年齢で区切るのではなく、中間的な年齢層について、行為者との年齢差等を考慮するなどして、保護を手厚くしたりすることを行っている(表3参照)。

 我が国が13歳を性交同意年齢とするのは、各国と比較して、低い(我が国と同様であった韓国は、2020年5月の改正で、13歳以上16歳未満の者に対して、19歳以上の者がした性交やわいせつ行為について、強姦罪等の適用があることとした。)。年齢差ゆえに類型的に真意による同意があるとはいえない場合が考えられるところであり、この点については、不同意性交等罪の一つとして規定すべきと考える。
 その年齢としては、13歳以上16歳未満(通常、中学在学中)の者に対して、成人(18歳以上)が性交などを行うときには、年齢差ゆえの成熟度の差の大きさから、保護の必要性が高いといえる。
 よって、3項の通り規定することを提案する。

[1] このアプローチは、ドイツ法において採用されている。
[2] 同様の犯罪類型としては、不退去罪(刑法第130条)がある。

(表2)

拡大するにはクリックしてください

5 類型的に地位が濫用されやすい場合

(地位濫用わいせつ及び地位濫用性交等)
第179条の2 次の各号に定める者に対し、当該各号に定める影響力があることを濫用してわいせつな行為をし、又はさせた者は、第176条の2の例による。第1号及び第2号の影響力を行使できる立場にある者の配偶者又はこれに準じる立場にある者がした場合も、同様とする。
 一 22歳未満の者 その者を監護、扶養その他法律上又は事実上の地位に基づいて管理又は監督している者であることによる影響力
 二 老年者、身体障害者又は病者 その者を保護する責任のある者又は現に保護する者であることによる影響力
 三 入院患者及び要介護者 その者に診療、療養看護又は介護を提供する立場にある者であることによる影響力
 四 生徒及び学生 その者に教育を提供する立場にある者であることによる影響力
 五 法令により拘禁された者 その者を看守し又は護送する者であることによる影響力
② 次の各号に定める者に対し、当該各号に定める影響力があることを濫用して性交等若しくは手淫等をし、又は性交等をさせた者は、第177条の2の例による。第1号及び第2号の影響力を行使できる立場にある者の配偶者又はこれに準じる立場にある者がした場合も、同様とする。
 一 22歳未満の者 その者を監護、扶養その他法律上又は事実上の地位に基づいて管理又は監督している者であることによる影響力
 二 老年者、身体障害者又は病者 その者を保護する責任のある者又は現に保護する者であることによる影響力
 三 入院患者及び要介護者 その者に診療、療養看護又は介護を提供する立場にある者であることによる影響力
 四 生徒及び学生 その者に教育を提供する立場にある者であることによる影響力
 五 法令により拘禁された者 その者を看守し又は護送する者であることによる影響力

(1)各国の比較からわかること(表3参照)

 各国法における、被害者・行為者との関係性に着目した規定については、個別の条文としては、抽象的なものから具体的なものまで、差が大きいところである。
 しかし、大まかに類型化すると、①家族関係、②教育等の関係、③治療・介護関係、④雇用関係、⑤拘禁関係にあるような場合が、地位や関係性を濫用されやすい場合として条文化されている。

 我が国では、監護者性交等罪・監護者わいせつ罪が新設されたが、これらは、①の中でもかなり限定された範囲である。
 特に、①家族関係については、我が国では、未成年者だけでなく、大学を卒業する22歳程度までは、自立した経済活動をすることが多いとはいえず、その意味で、親などに依存する関係が持続しているところである。
 また、必ずしも、直接的に監護しているわけではないが、親の交際相手であり、事実上、強い影響力を行使できる立場にある者についての処罰も考える必要がある事項と言わざるを得ない。

(2)地位濫用の条文の新設

 現行法の監護者わいせつ・性交等罪においては、同意があったとしても犯罪の成立が否定されない[1]。しかし、18歳未満の者を、現に監護する者でない場合であっても、一定の関係性のある立場の者の間では、被害者の意思に反する性交など・わいせつ行為が行われる危険性が類型的にあり、現行法の要件は厳格に過ぎる。
 威力による意思の制圧が明確に行われなくとも、一定の地位を濫用することによりこれと同様の場面が生じるため、本条を規定した。

 実行行為としては、単に、「乗じる」だけでは足りず、影響力を「濫用」する必要がある(各国法としても、明示的に「濫用」することが求められている場合がみられる。)。職権濫用罪(刑法第193条)における「職権を濫用」は、「公務員が、その一般的な職務権限に属する事項につき、職権の行使に仮託して実質的、具体的に違法、不当な行為をすること」とされている[2]。ここでいう「職権」とは、「職権行使の相手方に対し、法律上、事実上の負担ないし不利益を生ぜしめるに足りる特別の職務権限」とされている[3]
 そのため、職権濫用罪と同様、「相手方に対し、法律上、事実上の負担ないし不利益を生ぜしめるに足りる特別の地位」を有しており、その地位に基づいた影響力に仮託して」わいせつ・性交などを行う場合が、本条の射程とするところである。

 ①22歳未満の者については、我が国では、民法上成年年齢に達していることになるとはいえ、親などから独立しておらず、監護、扶養をしている者からの影響力を強く受けやすい立場にあるため、そのような影響力を濫用することを禁じる趣旨で、この規定を定めた。
 ②老年者、身体障害者、病者については、保護責任者遺棄罪(刑法第218条)において、保護責任の対象となる。これらの者を保護する責任のある者や、現に保護している者は、その影響力を濫用して、これらの脆弱性を有する者に、性交などを行ってはならないのであり、この規定を定めた。
 これらの規定については、特に、直接的に、監護や保護をしている者だけでなく、その者の配偶者やそれに準ずる立場にある者による影響力行使も問題となるため、柱書後段の規定がある。

 ③入院患者及び要介護者、④生徒及び学生については、それぞれ各国法においても、脆弱性があり、地位に着目した保護のなされている類型であり、本条においても規定した。
 ⑤被拘禁者に対して、看守者等は、類型的に、地位を濫用して、性交などに及びやすい危険性がある。そのため、この点についても条文化した。我が国においては、特別公務員暴行陵虐罪(刑法第195条)が存在するが[4]、その法定刑の上限は懲役7年以下となっており、わいせつ行為や性交などに及んだ場合については、より重く評価がされるべきである。そこで、本条にて規定した。なお、罪数としては、特別公務員暴行陵虐罪とは観念的競合(刑法第54条)となる[5]

各国法をみると、雇用関係にある場合についても、地位の濫用がされやすい場合として条文化されている場合があるが、威力の行使などと合わせて規定されており(韓国刑法参照)、「威力」や不同意性交等罪について条文化することから、この点は地位の濫用としては条文化しなかった。

[1] 田野尻猛「性犯罪の罰則整備に関する刑法改正の概要Ⅱ性犯罪に関する刑法改正」論ジュリ23号117頁
[2] 最決昭和57年1月28日刑集36巻1号1頁参照
[3] 最決平成元年3月14日刑集43巻3号283頁参照
[4] 東京高判平成15年1月29日判時1835号157頁参照
[5] 大阪地判平成5年3月25日判タ831号246頁参照

(表3)

拡大するにはクリックしてください

6 過失犯処罰規定の有無・範囲

 スウェーデン刑法では、重過失レイプ罪及び重過失性的侵害罪がある。また、カナダでは、無謀や意図的盲目があっても同意の誤信が抗弁にならないこと、その当時被告人が認識した状況下で、合意していることを確かめるために合理的な手順を被告人が踏まなかった場合や、合意が肯定的な言葉や積極的行動によって示された証拠がない場合にも同意があったと信じたことの抗弁を提出できないとの規定を置くことにより、実質的には過失犯を処罰していると評価できる。イギリスについても、証拠上の推定規定や確定的推定規定を置くことにより、被告人本人としては故意がなく、過失の有無が問題となりそうな場面でも故意犯としての処罰を可能にすることにより、過失犯となる領域の一部を処罰していると評価できる。
 しかし、今回調査した国では、これら以外で、過失犯を処罰している国はなかった。
 その理由としては、故意犯処罰が原則的であり、過失犯の処罰範囲は厳格に解すべきであるところ、性犯罪について過失犯を処罰するとなると、外縁が曖昧で性的自由に対する影響が大きいことなどからだと解される。
 そのため、現状として、我が国においても、過失犯処罰規定の創設は困難と考える。過失致死傷罪との法定刑の均衡から考えても同様である。
 よって、本提言においては、過失犯処罰規定は創設しない。但し、将来的な課題としては残される点ではある。


7 未遂犯・結果的加重犯の規定

(未遂罪)
第180条 第176条から第178条の2及び第179条から前条までの罪の未遂は、罰する。
(強制わいせつ等致死傷)
第181条 第176条、第178条第1項、第179条第1項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
② 第177条、第177条の2、第178条第2項、第178条の2第2項、第178条の3、第179条第2項若しくは第179条の2第2項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。

 不同意性交等罪については、未遂を処罰するとなると、処罰範囲が著しく広くなるため、既遂犯のみとした。
 結果的加重犯については、加重結果が生じる危険性が類型的に高いものが該当する。わいせつ行為については、威力や不意打ちによる場合、類型的に加重結果が生じやすいとは言い難いため、除外した。その一方で、性交等・手淫等が行われる場合には、一面ではこれらの行為は身体に対する侵襲行為といい得るものであり、加重結果が生じやすい類型的な危険性があるため、不同意性交等罪を含め、致死傷罪の対象とした。


8 新たな構成要件の法定刑

(1)各国法の比較からわかること

 法定刑については、各国ごとに、個別性が強く、どの程度の法定刑を定めるかは、他の犯罪との比較など、各国の国内法における整合性が重要であるといえる。
そのため、我が国における新規の構成要件の法定刑についても、同様に、強制わいせつ罪、強制性交等罪や強要罪等の関連規定との比較が重要である。

(2)新規に創設した条文の法定刑

 本提言における各条文及び既存の関連し得る刑法典の条文との法定刑の比較は、下記図の通りである。

拡大するにはクリックしてください

 ア 威力わいせつ・不意わいせつ罪については、強制わいせつ罪よりも、軽微な行為類型を想定している。そのため、懲役刑の上限・下限のともに、強制わいせつ罪よりも軽いものである必要がある。とはいえ、例えば、重い情状事情となる常習的な威力わいせつが行われた場合を想定すると、その評価が、強制性交等罪の下限よりも軽いというのは、均衡を失すると解される。よって、法定刑の上限については、強制わいせつ罪の懲役刑の上限と、強制性交等罪の懲役刑の下限の中間的な懲役7年が適当である。
 下限については、不意に行われた極めて軽微なわいせつ行為も想定され得るため、定めなかった(1月以上(刑法第12条第1項)となる)。
また、行為態様によっては、略式命令を用いられるよう罰金刑も定めた。罰金刑の上限250万円については、わいせつ物頒布罪と同様である。
 準威力わいせつ罪、地位濫用わいせつ罪は、威力わいせつ罪等と同じ法定刑である。

 イ 威力性交等罪については、強制性交等罪よりも、軽微な行為類型を想定している。もっとも、性交などという重大な結果を伴う犯罪類型の上限が、それよりも軽微な結果であるわいせつ行為による侵害のみを生じさせる強制わいせつ罪よりも軽いのは均衡を失するため、強制性交等罪と強制わいせつ罪の中間の15年が懲役刑の上限として適当である。
 下限については、性交などという重大な性的自己決定権が威力を用いて侵害されている場合について、強要罪の上限よりも軽微であるというのは均衡を失するところであり、懲役3年が適切である。3年であれば、情状によっては執行猶予をつける余地もあり(刑法第25条)、この点からも、実刑と執行猶予との柔軟な科刑をすることが可能である。
 準威力性交等罪、地位濫用性交等罪は、威力性交等罪と同じ法定刑である。

 ウ 不同意性交等罪については、威力や反抗を著しく困難にする程度の暴行脅迫がない場合についての規定である。そのため、懲役刑の上限・下限のともに、強制性交等罪、威力性交等罪よりも軽いものである必要がある。
 その上で、上限については、被害者の意思に反する性交などが、わいせつ行為による侵害よりも軽く法的に評価されるのは均衡を失するため、強制わいせつ罪の上限と同じ、懲役10年が適当である。
 また、下限については、やはり被害者の意思に反する性交などがなされていることは、強制的にわいせつ行為が行われた場合(6月以上)よりも、軽く評価されるべきものではなく、懲役1年が適当である。


9 結び

 「第1 はじめに」記載の4件の無罪判決については、事実認定の問題などもあり、単純に法改正により対処すべき問題ではないところはある。
 しかし、本提言における法改正をすることにより、抗拒不能又は反抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫がなかった場合や、それに対する故意がなかったと判断される場合が、単純に無罪となるような事例はなくなると解される。
 また、同意の誤信の主張ができる範囲についても、絞りがかかるところとなったと解される。
本提言が、今後の法改正の議論の一助になれば幸いである。

以  上


【改正案 全文】

※赤字の部分が改正箇所

(強制わいせつ)
第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

(威力わいせつ及び不意わいせつ)
第176条の2 13歳以上の者に対し、威力を用いてわいせつな行為をし、又はさせた者は、7年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。
② 13歳以上の者に対し、不意にわいせつな行為をした者も、前項と同様とする。

(強制性交等)
第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交若しくは口腔性交(以下「性交等」という。)又は性器若しくは肛門への身体の部位若しくは物の挿入(以下「手淫等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等又は手淫等をした者も、同様とする。

(威力性交等)
第177条の2 13歳以上の者に対し、威力を用いて性交等若しくは手淫等をし、又は性交等をさせた者は、威力性交等の罪とし、3年以上15年以下の有期懲役に処する。

(準強制わいせつ及び準強制性交等)
第178条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
② 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等又は手淫等をした者は、第177条の例による。

(準威力わいせつ及び準威力性交等)
第178条の2 次の各号に定める状態に乗じ、又は次の各号に定める状態にさせて、わいせつな行為をし、又はさせた者は、第176条の2の例による。ただし、第2号の場合において、承諾を得たときはこの限りでない。
 一 人の心神耗弱、又はアルコール若しくは薬物の影響により正常な判断が困難な状態
 二 前号に掲げるもののほか、人の抗拒の困難な状態
② 次の各号に定める状態に乗じ、又は次の各号に定める状態にさせて、性交等若しくは手淫等をし、又は性交等をさせた者は、第177条の2の例による。ただし、第2号の場合において、承諾を得たときはこの限りでない。
 一 人の心神耗弱、又はアルコール若しくは薬物の影響による正常な判断が困難な状態
 二 前号に掲げるもののほか、人の抗拒の困難な状態
③ 知的障害その他の障害を有するために前2条に定める心神耗弱に常にある者に対し、その配偶者又はそれに準じる関係のある者が、その承諾を得て、わいせつな行為又は性交等若しくは手淫等をするときは、これを罰しない。

(不同意性交等)
第178条の3 認識することができる人の意思に反して性交等若しくは手淫等をし、又は継続した者は、1年以上10年以下の懲役に処する。
② 性交等又は手淫等の性質又は態様についての人の錯誤であって当該錯誤がなければ性交等又は手淫等が人の意思に反することとなるものに乗じて、性交等若しくは手淫等をし、又は継続した者についても、前項と同様とする。
③ 13歳以上16歳未満の者に対して、性交等又は手淫等をした18歳以上の者は、第1項と同様とする。

(監護者わいせつ及び監護者性交等)
第179条 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第176条の例による。
② 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等又は手淫等をした者は、第177条の例による。

(地位濫用わいせつ及び地位濫用性交等)
第179条の2 次の各号に定める者に対し、当該各号に定める影響力があることを濫用してわいせつな行為をし、又はさせた者は、第176条の2の例による。第1号及び第2号の影響力を行使できる立場にある者の配偶者又はこれに準じる立場にある者がした場合も、同様とする。
 一 22歳未満の者 その者を監護、扶養その他法律上又は事実上の地位に基づいて管理又は監督している者であることによる影響力
 二 老年者、身体障害者又は病者 その者を保護する責任のある者又は現に保護する者であることによる影響力
 三 入院患者及び要介護者 その者に診療、療養看護又は介護を提供する立場にある者であることによる影響力
 四 生徒及び学生 その者に教育を提供する立場にある者であることによる影響力
 五 法令により拘禁された者 その者を看守し又は護送する者であることによる影響力
② 次の各号に定める者に対し、当該各号に定める影響力があることを濫用して性交等若しくは手淫等をし、又は性交等をさせた者は、第177条の2の例による。第1号及び第2号の影響力を行使できる立場にある者の配偶者又はこれに準じる立場にある者がした場合も、同様とする。
 一 22歳未満の者 その者を監護、扶養その他法律上又は事実上の地位に基づいて管理又は監督している者であることによる影響力
 二 老年者、身体障害者又は病者 その者を保護する責任のある者又は現に保護する者であることによる影響力
 三 入院患者及び要介護者 その者に診療、療養看護又は介護を提供する立場にある者であることによる影響力
 四 生徒及び学生 その者に教育を提供する立場にある者であることによる影響力
 五 法令により拘禁された者 その者を看守し又は護送する者であることによる影響力

(未遂罪)
第180条 第176条から第178条の2及び第179条から前条までの罪の未遂は、罰する。

(強制わいせつ等致死傷)
第181条 第176条、第178条第1項、第179条第1項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
② 第177条、第177条の2、第178条第2項、第178条の2第2項、第178条の3、第179条第2項若しくは第179条の2第2項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。


資料のダウンロード


ご意見・ご感想

このフォームは、当会宛てにメールを送信するものであり、送信した内容が直接サイト内に表示されるものではありませんので、お気軽にご意見・ご感想をお寄せください。いただいご意見・ご感想は、今後の当会の活動の参考とさせていただきます。