いわゆる国旗損壊罪の創設について-外国国章損壊等罪との比較

与党から、国旗損壊罪(日の丸損壊罪)を今国会法案提出する動きがニュース報道されている。

第204回国会には、本稿作成現在(2021年2月24日)はまだ提出されていないため、法案の内容は明らかではないが、外国国旗と同等の扱いをする旨述べられていることからすると、

(外国国章損壊等)

第九十二条 外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

2 前項の罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない。

をベースに、

日本国に対して侮辱を加える目的で、国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する

という条文を想定しているものと思われる。

ここでは、まず、外国国章損壊等罪の日本法における解釈を示した上で、想定される国旗損壊罪と比較して、その問題点を検討したい。外国の罰条との検討も必要であるため、その点については追って検討したい。


外国国章損壊等罪は、①外国に対する侮辱目的をもって、②外国の国章に対して、③損壊、除去、汚損行為に対して成立することになるが(92条1項)、外国政府の請求がなければ公訴提起をすることができないとされている(同条2項)。

そして、当該条文は、「第4章 国交に関する罪」に位置づけられており、その趣旨は、外国国章の損壊等がされた場合、外国との国交を害し、ひいては我が国の安全、国際関係的地位を危うくする可能性があるため、日本の外交上の利益を保護するための規定と解されている(前田雅英他編『条解刑法[第3版]』269頁(2015年、弘文堂)、山口厚『刑法各論第2版』535頁(2010年、有斐閣))。

そのため、国旗損壊罪の提案趣旨として挙げられているような、日本の国旗であれ、外国の国旗であれ、損壊等の行為は、「国旗が象徴する国家の存立基盤・国家作用を損なうもの」であり、「国旗に対して多くの国民が抱く尊重の念を害するもの」であるために外国国章損壊等罪が処罰されている、というわけではない。保護法益の点からして、外国国章損壊等罪があることから国旗損壊罪も平等に処罰すべきということには直ちにならない。

元より、他人所有の国章を損壊等すれば、より重い器物損壊罪(刑法261条。3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料)が成立する。

そのため、国旗損壊罪の処罰の適否として検討すべきは、自己所有の国章であっても、損壊等をすることが、犯罪行為なのかである。


そこで、より細かく、外国国章損壊等罪の構成要件を見る。客体である外国国章に対して、損壊、除去、汚損行為を、外国に対して侮辱を加える目的で起こった場合が捕捉されているため、その解釈を確認する。

まず、客体となる「国章」とは、国の権威を象徴する物件をいい、国旗のほか、軍旗や大使館の徴章などを意味する。

このような国章としては、私人が掲揚するものも広く含まれるとする説(A説)、国家機関により公的に掲揚されているものに限られるとする説(B説)、公的に掲揚されているものに加え、国の権威を象徴するものとして公共の場に掲げられているものまで含むとする説(C説)が学説的にはわかれている。

B説が通説的な見解であるが、外交上の利益を保護する点からC説も有力である。

国旗損壊罪を考えた際に、A説のような観点から処罰するのであれば、その処罰範囲は極めて広範囲に及ぶことになり、表現の自由との関係で、過度に広汎な規制であるとの誹りを免れないと思われる。

実行行為である損壊、除去、汚損とは、国章の効用を滅却する行為を意味し、損壊は、物理的に毀損すること、除去は、客体を場所的に移転すること、汚損とは、塗料・汚物等を付着させて汚すことを意味する。なお、除去には、物体により遮蔽することも含まれると判例上解されている(最決昭和40年4月16日刑集19巻3号143頁)。

犯罪とされる行為は、除去に遮蔽行為も含まれていること等、かなり広汎に捕捉されていることがわかる。

また、作為犯に限られるようにも読めるが、条文上、掲揚されている国章に対する行為に限られるのか、不作為犯を処罰しないのかも明らかでなく、場合によっては、掲揚していないこと自体を、実行行為とされる危険性もないではない。少なくとも、「国旗に対して多くの国民が抱く尊重の念を害するもの」を処罰したいと考えるのであれば、不掲揚自体を処罰対象に含める歯止めとなるような要素が含まれているとはいえない。

最後に、「外国に対して侮辱を加える目的」が必要であるが、行為の客観的態様として侮辱的な意義を有することが必要で、行為者がそれを確定的に認識していたことを意味するべきとされる。但し、現実に、当該国家の名誉や名誉感情が害されることは必要ではない。

この点が、表現の自由との関係では最も重要であり、ある国家行為に対して、それに対する不賛同の意思を表明するには、侮辱的な意義を有する行為がなされることが当然に想定される。その意味で、この目的は、表現の自由と正面から衝突することになる。「国旗に対して多くの国民が抱く尊重の念を害するもの」を処罰したいと考えるのであれば、このようなマイノリティーの不賛同の表明行為そのものを狙い撃ちすることにもなりかねず、問題である。


以上のように、国旗損壊罪を設けるとしても、その立法事実があるのか、なぜ犯罪としての処罰を必要としているのか、そしてそれは憲法の保障する表現の自由や思想良心の自由との関係で問題ないのか重層的な検討を要するものである。

外国国章損壊等罪についても、判例としては調べられる限り1件しかなく、実際上、このような国章損壊行為によって外交上の利益が害されることになるのか疑問なしとしないのが中間的な結論である。

追って、外国における国旗損壊罪について、いくつか確認してみたいと思う。罰条の存否のレベルではなく、どのような行為が処罰されているかこそが、刑罰をもって保護すべき保護法益があるかどうかを判断する上で重要だからである。

参考資料

https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2012/120601_2.html

https://www.sanae.gr.jp/column_detail1293.html

https://bijutsutecho.com/magazine/insight/23509

https://news.yahoo.co.jp/byline/shidayoko/20210202-00220689/

https://www.newsweekjapan.jp/amp/reizei/2021/02/post-1214.php?page=1