併合罪における量刑判断について

2021年3月17日

 複数の犯罪行為について起訴されている被告人の弁護人として選任されることは全く珍しいものではない。例えば、特殊詐欺等の事案においては、犯行が露見する前に複数人の被害者から現金の交付を受けていることが多く、1つの詐欺罪のみの起訴で済むことの方が少ないとも言える。
そして、複数の罪に対する刑事罰を決める際に、その複数の罪が特別な関係になければ、原則として、その複数の罪は「併合罪」として処理されることとなる。
 あまり問題視されることは多くないものの、この規程についても、不自然な文言解釈を前提に運用されている側面があることに加え、裁判官が被告人の刑を量定するにあたって必要な内容が含まれておらず、改善の余地があるように思われる。

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併合罪については、次のような規定が設けられている。

刑法
(併合罪)
第45条
 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。
(併科の制限)
第46条 1項
 併合罪のうちの一個の罪について死刑に処するときは、他の刑を科さない。ただし、没収は、この限りでない。
同条2項
 併合罪のうちの一個の罪について無期の懲役又は禁錮に処するときも、他の刑を科さない。ただし、罰金、科料及び没収は、この限りでない。
(有期の懲役及び禁錮の加重)
第47条
 併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。
(罰金の併科等)
第48条 1項
 罰金と他の刑とは、併科する。ただし、第46条第1項の場合は、この限りでない。
同条2項
 併合罪のうちの二個以上の罪について罰金に処するときは、それぞれの罪について定めた罰金の多額の合計以下で処断する。

 このように、併合罪として処理される場合、複数の罪に対して個別の刑罰が言い渡されるのではなく、複数の罪に対して1つの刑罰が言い渡されることとなる。
 そのようにして言い渡される1つの刑罰の量定について、言い渡される刑罰の種類に応じて、刑法第46条以下が規定している。
 また、併合罪は、刑を加重事由の一つであるところ、他の刑の加減事由との関係について、刑法第68条以降の規定を確認する必要がある。

(法律上の減軽と刑の選択)
第69条
 法律上刑を減軽すべき場合において、各本条に2個以上の刑名があるときは、まず適用する刑を定めて、その刑を減軽する。
(加重減軽の順序)
第72条
 同時に刑を加重し、又は減軽するときは、次の順序による。
  1 再犯加重
  2 法律上の減軽
  3 併合罪の加重
  4 酌量減軽

 刑法第72条によると、併合罪の加重の前に法律上の減軽を検討する必要があり、刑法第69条によると、法律上の刑を減軽する前に、適用する刑を定める必要がある。
 このような順序で刑罰を検討する場合、併合罪としての加重をする前の段階で、各罪に対して言い渡す刑罰の種類を定めることになる。そうすると、いくつもの罪を犯していることから、その全体に対する刑罰としては死刑や無期懲役刑を科すことが相当であっても、死刑や無期懲役刑を科すことが相当であるほどに重い罪が一つでも含まれていなければ、死刑や無期懲役刑を科すことができなくなってしまうように思われる。

 この点について、最決平成19年3月22日(刑集61巻2号81頁)は、「併合罪関係にある複数の罪のうちの1個の罪について死刑又は無期刑を選択する際には、その結果科されないこととなる刑に係る罪を、これをも含めて処罰する趣旨で、考慮できるというべきであり、当該1個の罪のみで死刑又は無期刑が相当とされる場合でなければそれらの刑を選択できないというものではない。」と判示している。

 上記最決の判示自体は妥当なものと言えるが、上述した刑の加減事由についての検討順序についての規定や、「他の刑を科さない」と定める刑法第46条1項の解釈としては、やや無理があるように思われる。

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 このような問題は、無期懲役刑や死刑等、刑種の選択との関係に限られた問題ではない。

 特に、刑法は、実際に宣告される刑の量定方法について一切の規定を置いていない。「他の刑を科さない。」と定めている刑法第46条との関係においても、他の犯罪の内容を考慮した上で死刑や無期懲役刑を選択することを許容しているため、第47条が定める有期懲役刑が問題となる場合、被告人に科される1つの刑罰の量定にあたって、起訴されている全ての犯罪を考慮できることは当然としても、それぞれの犯罪に対する刑罰を個別に量定し、その刑期を合算して刑罰を定めるのか(つまり、別々に裁判を行うのと同様の刑罰を科すのか)、複数の罪を全体としてみた上で刑罰を量定するのかについて、刑法は何ら規定していないのである。

 この点について問題となったのが、極めて悪質な未成年者略取及び逮捕監禁致傷罪と犯情が比較的軽微である窃盗罪が併合罪として処理された最判平成15年7月10日(刑集57巻7号903頁)の事案である。

 第一審判決(新潟地判平成14年1月22日判例時報1780号150頁)は、「本件の処断刑になる逮捕監禁致傷罪の犯情には特段に重いものがあるといわざるを得ず…被告人に対しては、逮捕監禁致傷罪の法定刑の範囲内では到底その適正妥当な量刑を行うことができない…」と判示し、当時の逮捕監禁致傷罪の法定刑の上限であった10年を超える懲役14年の判決を宣告した。
 一方で、控訴審判決(東京高判平成14年12月10日判例時報1812号152頁)は、「併合罪を構成する個別の罪について、その法定刑を超える趣旨のものとすることは許されないというべきである。…逮捕監禁致傷罪と窃盗罪の併合罪全体に対する刑を量定するに当たっては、例えば、逮捕監禁致傷罪につき懲役9年、窃盗罪につき懲役7年と評価して全体について懲役15年に処することはできるが、逮捕監禁致傷罪につき懲役14年、窃盗罪につき懲役2年と評価して全体として懲役15年に処することは許されず、逮捕監禁致傷罪については最長でも懲役10年の限度で評価しなければならない…」として第一審判決を破棄した。
 そして、最高裁は、「処断刑の範囲内で具体的な刑を決するに当たり、併合罪の構成単位である各罪についてあらかじめ個別的な量刑判断を行った上これを合算するようなことは、法律上予定されていないものと解するのが相当である。…(刑法第47条が)更に不文の法規範として、併合罪を構成する各罪についてあらかじめ個別的に刑を量定することを前提に、その個別的な刑の量定に関して一定の制約を課していると解するのは、相当でない」として、原判決を破棄して第一審判決を維持した。

 確かに、併合罪に対する刑罰を量定について、個別に刑を量定した上でその内容を合算して定めるべきではないことは最高裁判決が判示するとおりである。しかしながら、高裁判決が指摘するように、「逮捕監禁致傷罪につき懲役14年、窃盗罪につき懲役2年と評価して全体として懲役15年に処すること」を許容することは、単にそれぞれの刑罰を合算するよりも重い刑罰を科することとなるのであって、このような量定を刑法第47条が予定しているかどうかは疑問である。

 特に、罪種の異なる犯罪行為が併合罪関係にある場合で、犯情の重さに一定程度の格差がある事案においては、量刑判断の中核となる重い罪についての刑事責任を中心として検討するのが裁判例における一般的な刑の量定方法であると思われるところ、極めて軽微な別個の犯罪行為と併合罪関係にあることで、平成15年最判のように、本来の法定刑の1.5倍近い刑期の有期懲役刑を宣告できる程に、逮捕監禁致傷罪の刑事責任が重大なものとなるとは考えられない。

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 このような限界事例に限らず、併合罪に対する刑罰の量定において、量刑判断の中核とならない犯罪行為が被告人の刑事責任にどのような影響を及ぼすのかについて、我が国の刑事司法は十分な答えを見出しているとは言い難い。
 最高裁が判示しているとおり、個別の刑を量定した上で内容を合算するべきではないし、量刑判断の中核となる犯罪以外の事実について、量定に際して一切考慮されないとするのも不当である。したがって、併合罪を全体としてみた上で刑を量定することが相当であることに異論はない。
 しかしながら、東京高判が正しく指摘しているとおり、量刑判断の中核となる犯罪についての法定刑を超えた刑罰を科すために、犯情の著しく軽い罪についても起訴した上で、両者を併合罪として処理することに妥当性は認められない。上述したように、犯情の著しく軽い罪と併合罪関係にあることによって、被告人の刑事責任が大きく増加するということは考え難いからである。

 東京高判が否定したような併合罪における処理の仕方を明文化することに加えて、併合罪に関する刑の量定を行う際の考慮事由について明文化する必要があるように思われる。特に、我が国の刑法が定める法定刑はその幅が広く、裁判官に対して大きな裁量を与えている。
 併合罪として処理される複数の犯罪行為は、包括一罪又は科刑上一罪として処理できない関係にある犯罪行為であるものの、被告人の責任や違法性等について重なり合いが認められることは十分にあり得ることから、別個に裁判を行った場合の量刑を合算して量定される刑と、併合罪として処理された場合における適切な量定は異なるものと想定されるからである。