法務教官へのインタビュー

2022年6月7日

少年法改正では、少年院のあり方も議論の俎上に上ったが、法務教官に対する聴取は、法制審部会での議論を見ても、大きく行われた様子はなかった。

しかしながら、少年法と少年院とは切っても切れない関係にあり、少年院での矯正教育を担う法務教官は、少年法制を考える上で、最も重要な実務家の一人だといっても過言ではないであろう。

とはいえ、実際のところ、法務教官がどのような仕事をしているかなどについては、あまり社会的に知られていないように思われる。

当会では、法務教官(ホワイト@法務教官(@whitywhite01))から講演を受ける機会に恵まれたため、当会の神谷(以下「神谷」)が、法務教官(以下「教官」)に対してインタビューをする形式でこれを紹介したい。


1 法務教官とは

神谷)

まず、法務教官とはどういったものなのかを教えていただければと思います。

教官)

法務教官は、少年院や少年鑑別所で働いている国家公務員です。

少年院の中のイメージとして、中学高校の体育教師のような人が、腕を組んで、少年達を監督しており偉そうにしている。法務「教官」と聞くと、この体育教師のような人を想像するかもしれません。

しかし、これは、法務教官の基本的なメンタル、姿勢とは異なると思います。

神谷)

鬼教官(?)のようなイメージとは違うのですか。

教官)

もちろん、少年院ごと、法務教官ごとにカラーがあるため、違いがありますが、法務教官の考えとしては、「率先垂範」というのがあります。

少年が、腕立てを100回やるのであれば、法務教官は、101回、110回と、少年達と一緒にやりながら、それ以上のことを示すというような姿勢が基本だと思います。

法務教官の基本となるのは、少年法1条の「少年の健全育成を期」すという考えになると自分は思っております。

神谷)

そうすると、刑務所の刑務官とは違うものなのでしょうか。

教官)

全く違うものだと思います。是非とも、刑務官と、法務教官とは、別の職業であるということを、ここでは覚えていってほしいと思います。

神谷)

はい、一番の忘れてほしくないポイントですね。

教官)

そうです。

あとは、少年院と少年鑑別所とで違いがありますが、ここでは、少年院の仕事を主に述べたいと思います


2 少年院について

神谷)

具体的な仕事の話に入る前に、そもそも、少年院といったものや、そこに入院するのはどういった少年なのか教えて下さい。

教官)

少年院は、制度的には、犯罪傾向の進んだものを扱うか、医療少年院なのかなど違いがあります。また、少年院には、第一種から第四種の区別が設けられていましたが、今回の少年法改正で、第五種が加えられました。

ただ、全国的に、少年院の入院者は減っており(令和3年度犯罪白書104頁参照)、少年院の統廃合も進められております。これは、少年事件自体が減っていることの影響もあると思います。なお、令和3年度ですと、家裁送致された少年の人数が4万3872人であるのに対して、1624人が少年院に入院したことになっております(令和3年度犯罪白書117頁参照)。

私が主に勤めてきた所は、比較的犯罪傾向の進んだ少年達を相手にしてきましたが、発達障害のある者の割合が増えている印象はあります。おそらく、以前は、このような診断や考え方がなかったのが、より細かく少年達の特性に応じた対応ができるようになってきたと感じております。

また、学歴で見ると、高校中退、中学卒業の少年が60%程度、就職の有無で見ると、仕事をしている子が半分、学生が半分程度です。

神谷)

就学や就職先があると再犯防止に繋がりそうですね。

教官)

確かに、学校や仕事で居場所があると、再犯しにくいです。

そのため、出院後に、就職させたり、通信制高校や定時制高校と連携をする方策を進めております。

もちろん、これらは重要な再犯防止策ではありますが、私の感覚としては、再犯しにくい子は、元々、学校や就労先があります。それに対して、再犯しやすい子は、学校や仕事を続けられない印象です。ここでは、どのようにして、学校や仕事を続けられる能力を養えるかを、中での処遇として考える必要があると感じております。


3 具体的な仕事は

神谷)

少年院での仕事は、どのようなものでしょうか。

教官)

まず、基本的に、少年院の入院期間は、概ね11か月となるように調整をしております。その中で、成績をつけており(少年院法35条参照)、成績が悪いと、進級できないところがあります。

神谷)

落ちこぼれだと、いつまでも出院できないのでしょうか。

教官)

そんなことはありません。成績といっても、法務教官の仕事は、ある試験で、その子が100点を採れなければならないとするものではありません。そうではなく、その子の特性に合わせて、頑張れば達成できるであろうラインを見極め、そこに本人が近づいていけるようにすることを手助けするようにしております。

そのため、例えば、平均80点の試験があり、ある子が、50点しかとれていなかったとします。このとき、なんで80点とれなかったんだとするのではなく、以前、同じような試験で45点取れていたのであれば、5点伸びた点に着目します。そして、今後、65点をとろうと、少年と話し、少年が65点は厳しいとなれば、それなら今回の5点と同じ55点を目指そうと、少しずつ、努力を重ねるように進めていきます。

神谷)

そうすると、少年院に入れば、一気に人柄が変わるといったことにはならないですか。

教官)

そうですね、それは、正直ならないです。ただ、これまで生活してきた環境から、大きく切り離して、努力し、それによってある程度の達成ができるという体験をしてもらうことに意味があると思います。

少年の家庭環境によっては、そもそも努力して生業に就きお金を稼ぐということ自体を知らずに育ってきた子もいます。そのような子には、努力し、お金を稼いでいる大人がいるということを知ってもらうことにも意味があるのではないかと思います。

また、少年院内の農園芸課などについても、もちろん、それがそのまま出院後の仕事に繋がってくれればよいですが、残念ながらそうでないことも多いと思います。ただ、今までやったことのない、初めてチャレンジしたことについて、意外と自分ってできるじゃん、と少年達に経験、体感してもらうことが大事だと思っております。

神谷)

再犯防止推進法が平成28年に施行されましたが、これによって、少年院での処遇は何か変わりましたでしょうか。

教官)

私は、法務教官の現場としては、大きな影響はないように思います。

元々、法務教官の仕事の理念は、少年法1条の「少年の健全育成」です。再犯防止を目指すのではなく、個々の少年の「健全育成」を考えた際に、結果的に、再犯防止に繋がるように、これまでも、今後も法務教官は努力していくのではないかと思います。

神谷)

成人の刑務所での矯正とは違うということでしょうか。

教官)

それは、大きく違うところだと思います。少年法の理念が、法務教官の仕事における大きな主導原理になっております。

例えば、刑務所の収容者のルール違反には「懲罰」(刑事収容法150条)で対応するのに対して、少年院では「懲戒」(少年院法113条)をします。「懲罰」は、読んで字のごとく「罰」を与えるものですが、「懲戒」は、少年の問題性と繋げて、なぜそのようなルール違反に及んでしまったかを考えさせるようにします。


4 社会との繋がり

神谷)

おおよそ11か月、法務教官から教育を受けるとなると、出院後、少年がどうなったかなどは、気にならないでしょうか。

教官)

それは、気になります。ただ、以前は、法務教官は、あくまでも少年院内の人であり、出院後には交流してはいけないものとされていました。

その後、少年院法が改正されて、少年院法146条において、「交友関係、進路選択その他健全な社会生活を営む上での各般の問題について相談を求められた場合」には、相当の場合、相談に応じられるようになりました。

この運用状況については、私は承知していないのですが、このように少年院を出た後も、少年との繋がりがある方が、良いのではないかと思います。

もちろん、場合によっては、弁護士の助けが必要な場合などもあるため、少年院も、各地の弁護士会などとの連携をしていくことが必要になっていくでしょうね。


5 少年法制、法務教官の今後

神谷)

最後に、今回の少年法改正についての雑感などが何かあればお願いします。

教官)

少年法改正については、テーマが大きすぎますが、特定少年について虞犯が外されたことについては、特に女子少年について、今後どうなるかなとは思っております。

また、特定少年に対しては、入院期間が設定されてしまうことも、今後の運用としては気になるところです。

神谷)

入院期間の点について、もう少し詳しくお聞きできますか。

教官)

まず、成人の場合、実刑で懲役3年などとなると、一定の要件(刑法28条)の下、仮釈放されることがあります。仮釈放がなければ、基本的には満期まで入所することになります。

これに対して、少年の場合、従前は、年齢にかかわらずほぼ100%仮退院で出院します(令和3年度犯罪白書117頁参照)。その際には保護観察がつけられ、保護観察期間が終了すると本退院という扱いをしておりました。

これが、特定少年の場合、保護観察期間も含めて1年などの収容可能期間が設定されることがあり得ます(改正少年法64条2項)。その場合に、例えば、その子が規律違反を起こして、出院を延ばすとなると、保護観察期間がなくなるのではないかなど、今後の運用としてどうなるのかは気になるところです。

神谷)

法務教官の今後についてはいかがでしょうか。

教官)

より広くこういった仕事があるということを知ってもらいたいとは思います。

現在は、社会人枠での法務教官の採用もあります。プロスポーツ選手のセカンドキャリアとかとしても考えてもらえると嬉しいなとは思います。


参考資料

令和3年度 犯罪白書

https://www.moj.go.jp/content/001365732.pdf

法務省 法務教官区分、法務教官区分(社会人)

https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse12.html

以上