創作小説から考える刑事司法②

2024年2月16日

創作小説から考える刑事司法①では、刑事一審判決の判決文などがどのようなものかを一例として提示してみた。以下では、簡単にそのコメントを付す。

小説のネタバレが含まれるため、まだ①を読まれていない方は、①を読んでから進むことを推奨する。


【刑事訴訟の判決文について】

刑事訴訟における判決文は、「主文」及び「理由」によって構成されている。

「主文」では、有罪であればその刑種などが、無罪であれば無罪であることが示される。
主文は言い回しが決まっており、有罪である場合には、被告人「を」~に処するとするのに対して、無罪である場合には、被告人「は」無罪となる。
そのため、実際の言渡しの場面で、無罪を争っている事件では、被告人「は」と言われるか、被告人「を」と言われるかで無罪かどうかがわかることになる。

「理由」では、なぜそのような主文を導いたかが述べられる。
有罪の言渡しをする場合には、「罪となるべき事実」「証拠の標目」及び「法令の適用」を示すことが、求められている(刑事訴訟法335条1項)。

小説の方でも、「罪となるべき事実」が述べられているが、「証拠の標目」や「法令の適用」については省略されているが、実際には、ここにどのような証拠が事実認定に用いられたか、そして適用された法令上の根拠が示されることになる。

死刑判決が示される場合、「量刑の理由」として、なぜ死刑が選択されたかが述べられることが多い。
死刑は、国家が人の命を奪う重大な刑罰であるため、その理由を示すことが求められる。現実の事案の判決文にも見てみると、とても詳しく述べられていることが多い。
【死刑の執行について】

死刑の執行は、刑事訴訟法475条1項により、法務大臣の命令による。同条2項本文により、死刑執行の命令は、判決確定の日から6カ月以内にしなければならないと定められているが、再審請求などがされている場合には、この期間に含まず(同項但書)、実際上も、判決確定後、6か月以内にすぐ執行されることはほぼない。

刑事訴訟法476条により、死刑執行命令が出されてから、5日以内に執行をしなければならないと定められている。

刑事訴訟法477条1項により、死刑は、検察官、検察事務官及び刑事施設の長又はその代理者の立会の上で、執行することが定められている。なお、検察官又は刑事施設の長の許可を受けた者でなければ、刑場に入ることはできない。

刑法11条1項は、「死刑は、刑事施設内において、絞首して執行する。」と定めており、日本における死刑は絞首刑である。

絞首刑の執行方法を明確に規定したものは、明治六年太政官布告第六十五号(絞罪器械図式)しかなく、そこでは、地上絞架式が記されている(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=106DF0000000065)。
しかし、現在は、平面上を進ませて踏み板を開いて落下させる地下絞架式が採用されている。

死刑制度の存置・廃止に関する議論は、多岐にわたりここで述べることはできるものではないが、簡単にまとめたものとしては、「死刑制度を巡る存置・廃止の見解と課題」(https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2018_11/p30-33.pdf)を参照されたい。

なぜ山井戸隆に、このような判決と刑罰が下されたのか。以下では、それを見て行こう。

なお、以下の小説は完全なフィクションであり、実在の人物、団体、事件とは一切関係がない